HR Knowledge Camp 2021は、『激動の2020年を経て、2021年の「雇用」や「組織の在り方」はどう変わるのか?』をコンセプトに掲げ、各テーマを代表する経営者・人事責任者を招いた1時間のトークイベント。(全6回開催)
4日目となる2月18日(木)は、「2020年IPO企業の社長が語る「事業の成長」と「組織の成長」」をテーマに、Retty株式会社代表取締役・共同創業者 武田氏、株式会社Kaizen Platform代表取締役 須藤氏に登壇いただきました。
【登壇者】
Retty株式会社
代表取締役・共同創業者
武田 和也氏
愛媛県出身、⻘山学院大学卒業。2007年株式会社ネットエイジ(現ユナイテッド株式会社)に入社し、インターネット広告の販売などマーケティング関連事業に従事。退社後1年間起業準備のためにシリコンバレーに滞在。帰国後、日本が世界に誇る食文化の興隆に貢献すべく、2010年にRetty株式会社を創業。2011年6月、実名口コミグルメサービス「Retty」をリリースし、2019年5月に月間利用者数4800万人を突破。2020年10月東証マザーズ上場。
株式会社Kaizen Platform
代表取締役
須藤 憲司氏
2003年に早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍。その後、2013年にKaizen Platformを米国で創業。現在は日米2拠点で事業を展開。企業の顧客体験DXを支援する「UX」「動画」「DX」の3つのソリューションを提供。著書:「ハック思考〜最短最速で世界が変わる方法論〜」 (NewsPicks Book)、「90日で成果をだす DX(デジタルトランスフォーメーション)入門」(日本経済新聞出版社)
【ファシリテーター】
株式会社LiB
LiBzCAREER営業部長
江成 充氏
2006年インテリジェンス(現パーソルキャリア)に新卒入社。人材紹介の法人営業・キャリアアドバイザーに従事。人材紹介と求人広告のマネジメントを経て2018年11月に株式会社LiBに参画。営業部長、転職支援部長を経て再度営業部長に着任。コロナ禍で40本を超える自社・共催ウェビナーに登壇。「日本中の一人ひとりが“自分以上の自分に出会える“場づくり」を掲げる。
上場は世の中に”自分たち”を受け入れてもらうプロセス
――Rettyさんは2020年10月30日に、Kaizen Platformさんは2020年12月22日に上場を果たされましたが、上場までの道のりや、組織の変遷についてお聞かせください。
須藤さん:
現在の従業員数は62名です。創業した2017年にも50名ほどいましたから、じわじわ増えています。当社はアメリカで起業して、アメリカの法人を子会社にして、日本の法人を親会社にするという、三角合併をしました。それが大変でして、税務的にも法務的にもケアしなければならないことがたくさんあり、1億程度の支出も重なりチームの負荷も高く本当に大変でした。
ストラクチャを変えて、2018年には動画の新規サービスKaizenAdでFacebookさんとパートナーシップを結んだところから一気に伸び始めました。
2019年には、IPOを準備していくなかで、当然会社のガバナンスを作っていかないといけないので、組織力強化に取り組みました。基本的な業績管理やチーム運営は、部長やマネージャーが中心になって対応してくれて、2020年には組織として強くなった感覚はありましたね。
――須藤さんの書籍『ハック思考〜最短最速で世界が変わる方法論』には、もともと現場に入り、営業の細かい業務も気になっていたと書かれていましたが。どのように部下に権限移譲をしていきましたか?意識的に手放したんですか?
須藤さん:
一番変えたところでいうと、自分の意識です。上場のプロセスの話になるのですが、社会に自分たちを受け入れてもらえる会社になるプロセスだと思うんですね。外から見て、自分たちがしていることは正しいのかを、ずっと考えるようになりました。
例えば、ビジョンにある言葉を少し変えました。もともとは『Kaizen Platform ビジョン21世紀の新しい働き方』でしたが、コロナ禍である学生さんとたまたまZoom飲みをしていた時に、「Kaizen Platformさんのビジョンに、21世紀の新しい働き方と書かれていますが、それは新しいんですか?と聞かれたんですよ。
――率直な言葉ですね。
須藤さん:
もうリモートやジョブ型みたいなのもそんなに新しくないなぁと本当に思い、「なめらかな働き方」にしたんですね。常に外部の人の視点で、自分やチームがどうなっているかを見るようになりました。
組織の強化から進化していくためのプロセス
――組織が強化されて、進化していく過程にはどんなことがありましたか?
須藤さん:
一言で言うと、「リーダーシップを発揮する人たちが出てくること」が組織が強化・進化していくなかで感じたことです。反省なんですが、自分が細かく言うことで、誰かの成長の機会を奪うことに繫がっていたのではないかと思うことがあったんです。
私も会社員時代があるのでわかりますが、実際自分が会社を辞めても意外と組織は回るわけじゃないですか。むしろそこで活躍する人も現れてくるわけなので、自分が細かいことを言うこと自体が、仲間の成長を阻んでいるのかもと感じたんです。社内でリーダーシップを発揮する人たちがたくさん出てくるのと同時に、組織が成長していった感覚を持っています。
――まさに細かく言い過ぎないからこそ育つことがあるということですよね。そう思われるようになったきっかけが何かあったのでしょうか?
須藤さん:
多分、武田さんも同じ感想なのではと思いますが、組織の変化は、自分の振る舞いに連動すると思うんです。自分が組織を全部動かしているとは思わないですが、影響が=は確実に与えています。悪い話で言うと、何となく発した自分の一言で誰かが傷ついてしまうことがあったり。
なので、社外の目はもちろん、社員として働いてくれているみんなから見た時に、自分が正しい振る舞いをしているのかどうかは考えないといけないなと気づきました。
30人から50人に組織が増えたときの変化
――Retty様側の組織の変化についてもお聞かせください。
武田さん:
まず当社は、2010年に創業して最初の2年は5・6人で運営していて、そこから毎年10人ほど採用してきました。大きな変化としては、組織が40〜50名になった2014年のタイミングですね。
それまでは階層を作らないフラットな組織だったのですが、情報共有や組織の一体感に課題が出始めてたんです。組織のモチベーションがわかるサービスを入れていたんですが、大幅にスコアが下がったことがありました。このままではいけないと思い、組織にマネージャーの仕組みを入れ、運営するスタイルを導入しました。
須藤さん:
すごくわかります。30人くらいだとフラットな方が良いですが、50人くらいになるとコミュニケーションの複雑度が増して、明らかにハブになる人がいないと回らない状況になりますよね。
武田さん:
そのとおりですよね。言語化する人・解釈する人が必要になってきます。
――もし、今武田さんが、当時の武田さんにアドバイスをするとしたら、どのような観点でどんなポイントを伝えますか?
武田さん:
新しいやり方を取り入れることはもちろん重要ですが、やっぱり王道なやり方を実践した方が良いと伝えますね。
世の中に5万とある会社がやって、うまくいったことを取り入れてみた方が正しい事が多いです。イケてない、古いと思いながらも、結局王道の方が正しいケースが多いんだと気付きました。
――須藤さんもおっしゃっていましたが、30人くらいまでは、フラットな方がまとめやすいんですね。
須藤さん:
正直その時は、私たちも評価すらしていませんでした。評価制度を入れたのも、もう少し後。そういう時は事業に邁進していた方がいいので、とにかく事業に向き合うという状態でした。
――それは査定で、給料の上げ下げをしなかったということですか?
須藤さん:
振り返りはしていましたが、査定はしていませんでした。成長期フェーズや、30〜50人までのフェーズは会社が成長しているに従ってちょっとずつ報酬が上がっていく仕組みがあれば何とかなるんですよ。
その時に評価で、あえて、C・D評価をつけてコミュニケーションコストが発生してしまうのは変な話です。毎年一律でいくらって上げていく方が、組織の問題を起こさず事業の成長を最大化できるフェーズなのだと思います。
武田さん:
制度を入れると運用が大変になりますもんね。
須藤さん:
制度の中身はもちろんのこと、運用が肝だと思うんです。だから運用フェーズに入らないと、とりあえず制度だけ入れたけど運用が雑でみんなの不満に繋がりますよね。
武田さん:
そうですね。だから組織もまだ整っていない最初のフェーズでは、みんな一律5万円アップとかにした方が、本当にうまくいくと思います。
――チャットでいただいた質問です。10名を超えた時点で、急に組織課題が増えたのですが、ミッション・バリュー、評価基準の選定などの基本的な施作以外で、効いた施作の具体例があれば教えてください。
武田さん:
Rettyの場合は、バリューを大体2年間に1度更新してきました。全員で合宿に行き、今の組織の問題と2年後に目指したい事業について意見を出しながら、解決するものとしてバリューを設定します。2年すると組織が大きくなるので新しい組織課題やフェーズになるタイミングで更新していますね。全員でアップデートするのはすごく良かったですね。納得感だけでなく、その後の浸透に繋がります。
須藤さん:
私も毎月オフサイトミーティングという合宿をしていました。全員集まり、会社の1年後・2年後について話しています。今でも四半期に一度は実施していますね。
カルチャーフィットする人材を見抜くには!?
――こちらもいくつか質問をいただいていますが、組織づくりをする上で、気をつけていることやポイントはありますか?
須藤さん:
会社のフェーズによっても違いますが、最初の初期は、個人の力に依存すると思うんです。突破力のある人がどうしたって必要なんです。30〜50人になると、チームを作るためのマネジメントに投資していかなければならないんです。
マネジメントが得意な人は、個として突破力のある人とは違う属性だったりするので、その辺からビジョンが大事になってくると思っています。
ある程度マネジメントのやり方が固まると、カルチャーフィットが大事になってくると思います。カルチャーフィットしないと、どれだけ個の力があっても発揮できない状態になります。
当社はビジョンやミッションが本当に有効に活用できるようになりはじめたのは、60名くらいですけど、ちゃんと言語化しておいて良かったと思っています。
――カルチャーフィットする人材の見抜き方や集め方について詳しく教えてください。
須藤さん:
私は早い段階で、僕自身が採用の最終決定者を降りました。本当にカルチャーが合うのかや、スキルセットが大丈夫なのかは現場の人たちにお願いするようにして、僕は逆に一次面接をするようにしました。
一緒に働くことが多いのはメンバーなので、採用に社員全員が関わってくれた方がいいなと思ったんです。
――Retty様はいかがでしょうか?
武田さん:
採用する上で気を付けているのは、どんな人を採用するかよりは、どう採用するかですね。従業員が80名くらいまでは、当社のバリューに「全員で採用」という項目があったんです。
それが、評価の項目にも入っていたので、採用に関わらなければならないというのをカルチャーとして実践していたんです。毎月15日は”イイゴハンの日”という、美味しいお店に友人や気になる人を招待して一緒にご飯を食べるなかで、Rettyの雰囲気を知ってもらったり、社内の人を知ってもらったりしています。
2012年ごろから続けています。全員で採用することを通じて、フィットするような人材を常に探して採用するということを繰り返し行なってきました。
須藤さん:
当社も、毎月行なっていた合宿に外部の人も来てもらっていました。会社の生々しい戦略の話もするんですが、そこから興味を持ってくれて入社に繫がった人もたくさんいますね。
――たしかにその辺の濃い話を聞けると、入社前後のギャップを極力小さくできますよね。
組織拡大していくときの成功・失敗例とは!?
――組織を拡大していくフェーズにおいて、キーマンの入社や結節点となるようなマネージャーが組織づくりにおいて大事ということですが、外から採用されましたか?それとも中で抜擢していかれましたか?
須藤さん・武田さん:
圧倒的に中からの抜擢の方が多いですね。
須藤さん:
ただ本当は待ちたいけど、事業成長のスピードで合わない時は外から採用します。
――採用段階で、こんな見極めの仕方をしたらうまくいったとかありますか?
武田さん:
あったら聞きたいです(笑)。失敗がゼロだった組織はないと思いますね。一気に役員の方を採用すると、必ず失敗するとかあると思いますね。
――この採用からうまく組織が回り始めたと思われたタイミングはいつですか?
須藤さん:
やっぱり、キーとなる人材の登用・活躍でしょうか。ただそれは時間もかかりますね。例えば課長や部長などの管理職が必要になる時、課長は課長のカルチャーが必要になるし、部長は部長の役割を小慣れてこないといけないと思うんです。それはいきなりできるものではないんですよね。
武田さん:
やはりキーマンの人たちが明確になることが重要ですよね。当社は、新卒採用を2013年からしていますが、今新卒比率が5割を超えてきました。徐々に活躍する人が出てきましたが、そういう状態になった時は結構いろいろと楽になったと感じます。
優秀な人たちがどんどん活躍してくれるようになると、組織で悩むことは減ってくると思うので、その比率が大事になるんじゃないかと思っています。
苦しい瞬間をどのように乗り越えていったのか
――2020年はコロナ禍になり、それぞれ苦しい瞬間が出てきたと思います。どんな困難があり、どう乗り越えてきたのかをお聞かせいただけますか?
武田さん:
コロナの状況は、2020年3月・4月の段階で、外食なんてもってのほかの環境になり、最初はこれどうなるんだと思いました。2020年夏前には、上場を考えていましたが、緊急事態宣言になり、東証も一部審査が停止になったんですよね。
ただ上場する・しないではなく、そもそも飲食店が大半潰れたら、それどころではないぞと。生きるか死ぬかみたいな話でした。なので、いつまでにどんなことをやっていないといけないのかの大枠をまとめて、それを全社員に危機感を持って共有をして、ちょうど100日プランを作りました。
会社がどうしようもなくなるかもしれないという危機感と、今後の動きを全てみんなに共有して目線を合わせました。非常に濃い一年間でした。
――どのレベルで開示をしたんですか?
武田さん:
最悪のシナリオを想定した際の生き残るための必要額など、そんなに項目自体は多くないんですが、ヒリヒリした緊張感の中で、色々考えながらやっていきました。本当に間違えられないですし、限界まで頑張らなければいけないという意味では、高い緊張感の中で事業運営できたいう意味でいい経験だったと思います。
――より組織が強くなるきっかけということですよね。須藤さんはどうですか?
須藤さん:
創業時のメンバー3人が残っていること、それぞれの専門領域でリーダーシップが取れ、力量のある人たちが入社してくれたことは大きいと感じています。
――CxOクラスの人たちに対しては、どのような情報を開示して、入社に至ったんですか?
須藤さん:
例えばCTOが入社してきてくれたときは、エンジニア全員と面談しましたね。営業も全員会いました。
――武田さんはどうですか?こういうチーム作りが効いたみたいな事例はありますか?
武田さん:
すごく良かったなと思うのは、ユーザー数がある程度伸びてきて、これから飲食店向けのサービスをやっていく時に、類似事業の経験のある人が入社がしてくれたんです。
私はもともとグルメ関連の会社にいたわけではないので、その経験は最初なかったので助かりました。飲食店の事情は十分に知らなかったので、経験者が入り事業が加速したというのはありますね。
正解にする努力をし続ける
――では最後お二方から、それぞれお一言ずついただけますか?
武田さん:
組織の悩みは、人事や経営者の方の大きなマインドシェアをしめると思うんですが、一回とある人に「組織は同じことを繰り返すから悩んでも無駄だ」と言われたことがあるんです。みんな何かしらの課題があり、常に悩んで解決することを繰り返していているんですよね。先手を打つものの結果的に何かしらの問題は起こるので、そこでめげずに解決していければ、事業成長とともに最終的には組織が良くなるというのが、10年経営してきて感じるところです。最後は継続力が大事なんだと感じます。
――須藤さんはいかがでしょうか。
須藤さん:
正解はないと思うんです。正解を作るというより、正解にする努力しかできないと思うんですよ。起きてしまうことを悔いるより、それに対してどんな学びを得たのかを考え続けるしかないと思います。
――何かしらの問題は常に隣にありますが、めげずに解決をし続けていくことが大事ですね。お二人ともありがとうございます。
(この記事は2021年3月に公開されたものです)