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意思決定の場に多様な視点を。企業価値向上には「正直であること」が重要【Kaizen Platform 社外取締役 杉之原明子氏 就任インタビュー】

女性社外取締役・非常勤監査役・役員等のボードメンバーに特化したサーチエージェント「LIBZ 女性ボードサーチ」。今回は、「LIBZ 女性ボードサーチ」を通して2022年3月に株式会社Kaizen Platformの社外取締役に就任した杉之原明子氏と、代表の須藤憲司氏に、就任にあたってのお話をうかがいました。

杉之原明子さん
PROFILE
杉之原明子さん
株式会社ガイアックスに入社後、学校向け新規事業の立ち上げに参画。同事業責任者を経た後、2014年10月ガイアックスから子会社化したアディッシュ株式会社取締役に就任。管理本部の立ち上げ及び上場準備の旗振りを行う。2020年3月に東証マザーズ上場。「ITベンチャー業界の意思決定層のジェンダーギャップ」をテーマにコミュニティをつくっている。株式会社Kaizen Platformの社外取締役のほか、アディッシュ株式会社取締役、特定非営利活動法人みんなのコードCOO、スローガン株式会社社外取締役を務める。
須藤憲司さん
PROFILE
須藤憲司さん
2003年株式会社リクルートホールディングス入社後、マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、リクルートマーケティングパートナーズ最年少執行役員(当時)として活躍。2013年に Kaizen Platform を創業。著書「ハック思考」「90日で成果をだすDX入門」

キャリアの選択肢の1つに、社外取締役というポジションを検討したきっかけは?

杉之原:もともとは、アディッシュの上場前後に社外取締役として伴走していただいた、現シナジーマーケティング取締役会長の谷井等さんの影響でした。経営に向き合う姿勢に刺激を受けたのと同時に、社内と社外の中間のような立ち位置で、一緒の船に乗って経営を推進していく役割があることを知るとともに魅力を感じたのです。

その頃私は、自分自身のキャリアについて見直す機会がありました。ずっと「組織の中で貢献できることを頑張る」というキャリアの築き方だったのですが、そのまま会社のミッションありきのキャリアだと行き詰まる気がして。コーチングに出会い、自分が本当にやりたいことを見出せたのが、2020年頃です。「人の動機が紡がれる世界に貢献したい」「まだ見ぬ可能性を最大化する構造をつくる」という、自分自身のミッションが明確になりました。そこから取捨選択ができるようになり、自分自身のテーマを軸に複数社の意思決定に関わり、多様化を推進したいと考えるようになったのです。

 

Kaizen Platformの社外取締役に挑戦しようと思った背景は?

杉之原Kaizen Platformは、「何のために事業をやっているのか」をストーリーとして発信していることに魅力を感じました。最初の面談は、経営課題に対するブレストをしながらで、「女性役員」というフィルターはなく、フラットに見てくださっている印象がありました。

代表の須藤さんとの面談はやや緊張しましたが、経営課題のみならず、ご自身の原体験をも赤裸々に語っていただく、まるでコーチングセッションのような不思議な時間でした。須藤さんの内面的変化やこれからの経営への意思に触れ、「コミットしない理由がない」と感じたのが、チャレンジしたいと思った経緯です。

「決め手」となったのは、どんな点でしたか?

杉之原1つめは、「21世紀のなめらかな働き方で世界をカイゼンする」というミッションに、コロナ禍を経て自身も体感的に共鳴できたことです。2つめは、経営陣が正直で誠実であるという点ですね。社外取締役は、社会の目からガバナンスを監督する役割である一方で、同じ船に乗る一員です。ですから、お互いに「会社をよく見せよう、自分を大きく見せよう」というコミュニケーションになってしまうと、アンハッピーな結果となります。その点、面談では全くそのような会話はなかったですし、実際、株主総会、取締役会に参加した今も、まったく印象は変わっていません。

 

Kaizen Platformでは、ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)をはじめとした組織づくりが期待されている役割だとおうかがいしていますが、「意思決定層の多様性」をご自身のテーマにしているのはなぜですか?

杉之原アディッシュで管理部門を立ち上げたときに、私以外が全員子どもを持つ社員で、私が唯一「残業ができるマイノリティ」になりました。それまでは何かあれば、とにかく時間を投下して解決するやり方でしたが、それが完全に封じられたのです。自分自身のやり方を全面的に見直すとともに、メンバーの働き方の素晴らしさにも気づかされました。

同時に、意思決定層に女性が少ない原因は、成果を「出していないから」ではなく「出しづらい構造にあるから」だということに気づくことができたのです。私はたまたまキャリアを支援してくれるスポンサーに恵まれ、成果を出しやすい状況にあったのかもしれないと。D&Iについて学べば学ぶほど、そういった構造を見ようともせずに経営の意思決定をしてきたのかと思うと、自分を筆頭に、意思決定層に多様性の観点がないことが恐ろしく思えたのです。ライフミッションとして勉強を始めたのは、その時のことがきっかけです。

 

D&I推進にあたり、会社を変化させるためにどのようなステップが必要だとお考えでしょうか?

杉之原3つあると考えています。

1つめは、自分の考えを社内外に発信していくこと。このテーマは、コミュニケーションに労力を要する話題です。しかも会話を経ても結局何も変わらない、ということも多くあります。「声なき声」が「声なき声」のままである理由は、まさにその結果です。さらに私もそうですが、自分が経験しないとなかなか気づけない。1回の対話だけでは分かり合えないことだからこそ、根気強く発信し続けたいと思っています。

2つめは、カルチャーづくりです。どんな人がどんな思いを持って働いていて、どこに課題があって…という解像度を上げることはもちろん、D&Iの目を持つことで、事業を通じた価値創造に結びついていくカルチャーをつくりたいと考えています。これからは「カルチャーアド」という考え方で、一人ひとりの個性を既存のカルチャーに付け加えていくことがポイントではないかと考えています。

3つめは、機会提供の歪みを正すことです。上司はどうしても「自分に似たかわいい後輩」に機会を与えがちです。その同質性の力学に、意思決定層、中間管理職が向き合っていくことが、変わるための大きなポイントだと考えています。

この3つは、分かりやすくきれいに取り組んでいけるものではありませんが、私が注力して取り組んでいきたいことです。組織の面からKaizen Platformの企業価値向上を支え、例えば須藤さんの社外発信内容が変わっていく等の変化をもたらすことができたら嬉しいですね。

 

最後に、社外取締役のポジションを検討している女性にメッセージをお願いします。

杉之原大前提、「女性だから」社外取締役に入ってもらう…という考え方はナンセンスだと思いますが、逆に今は女性に大きなチャンスがあるというのも事実です。少しでも、やってみたいという気持ちがあるならば、「やりたい」と小さくても声をあげてみてください。

 

Kaizen Platform 代表取締役CEO 須藤憲司さんより

ー 杉之原さんに期待していることを教えていただけますか?

須藤私たちの取締役会では「議論」を最も大事にしています。社外取締役の方には、経営の足りないピースを補っていただく一方で、外からの目で遠慮なく物申していただくことを期待しています。杉之原さんには、今のKaizen Platformの組織をD&Iの観点で強化するために、彼女ならではの経験と視点を活かして議論に参加していただきたいと思っています。

経営の議論においては、「正直であること」が重要だと考えます。できていないことやわからないことを正直にシェアし、現実と向き合うことで、議論のアジェンダが正しいものになるからです。だから杉之原さんとの面談の際にも、今のKaizen Platformができていないことや課題だと感じていることを、正直に開示しました。

ガバナンスは「統治」、つまり言うことを聞かせることを意味しますが、私は「言うことを聞きたくなるような経営」が大事だと考えています。そこでトップが虚勢を張ると、皆が心を開けず、結果的に間違った議論になりがちです。だから、正直に何でもシェアできる心理的安全性の中で、正しい方向に向かえるように皆で一緒に頭を使い、議論を実践に落とし込むところまで考える。それがKaizen Platformが大事にしたい経営のやり方です。杉之原さんはその点、NPOなどご自身の活動を通じた経験も豊富なので、実践を前提にした議論ができるのがありがたいですね。

ー 真っすぐに議論し、正しく実行することが重要というわけですね。企業が取り組むべきD&Iについては、どのようにお考えでしょうか。

須藤組織のD&Iについては、「インクルージョン」が最も難しいのではないでしょうか。自身のアメリカでの経営の経験から、「『社会』を『会社』の中に取り込んでいくこと」が重要な論点だと捉えています。アメリカは、人種・生育環境・宗教など、社会そのものが多様性に満ちています。その社会こそがマーケットでありステークホルダーでもあるため、「インクルージョン」の重要性が明確でした。

そんな「社会」を企業の中に取り込んだ上で、何でもかんでも受容するのではなく、自分たちが受け入れるものと、逆に受け入れられないものをクリアにすることが大事です。同じビジョン・ミッションに共感する仲間であること。そのバックグラウンドは多様であること。この2つを両立させることが、真のインクルージョンだと私は考えています。

さらに、多様性があるだけでは意味がありません。その個性を活かし、いかにして自分の企業ならではの競争力につなげるかを考える必要があります。例えば私たちの領域では、webサイトの導線を検討する際に、障がいを持つ方が同じように情報を得られるかどうかを考えることが、アクセシビリティ向上において重要なヒントになり得ることがあります。さまざまな状況の方が組織にいて、さまざまな視点を活かすからこそ、自分たちの事業の強みにつなげることができるのです。

ー その会社なりの「インクルージョン」のあり方を見つけることが大事なのですね。

須藤今でこそD&Iの重要性について語られますが、本来どこの企業にもダイバーシティは存在していたはずで、画一的な価値観を押し付けてきたために競争力として活かしきれていなかったことが課題なのです。サスティナビリティが叫ばれ、価値観が大きく変わり、資本主義がアップデートしようとしている今、企業価値の測り方も変化しています。私は経営のプロとして企業価値向上に挑む以上、正直に議論し、現実と向き合い、多様な観点で意思決定をしていく必要があります。杉之原さんを含む、多様な視点を持つ取締役会メンバーと共に、挑戦を続けてまいります。

 

株式会社Kaizen Platform
https://kaizenplatform.com/

インタビュー:江成 充(LIBZ 女性ボードサーチ 事業責任者 / noteはこちら
撮影・ライティング:高嶋 朝子(株式会社LiB)

 

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