目次
前編では、IPOを目指す無理筋な計画を立て、疲弊していく組織を見た近藤と品川が働き方改革を提案するも、経営陣が渋い反応を見せたところまでお届けしました。後編では、そんな中で働き方改革をどう推進し、どのように「ワークシフト支援企業」に生まれ変わったのかを振り返ります。ぜひ続けてお読みください。
※前編はこちらから
登場人物Profile
近藤 和弘(写真左)
ソニー入社後ソフトウェアエンジニアとして、日本初のAndroid端末開発に従事。その後株式会社ディー・エヌ・エー入社、執行役員/欧米子会社VPとしてグローバル向けモバイルゲームとスマートフォン用プラットフォーム/技術開発を経験。2018年10月LiB入社、2018年12月取締役就任。
品川 皓亮(写真右)
京都大学法科大学院を修了後、司法試験に合格し、TMI総合法律事務所にて企業法務を中心に弁護士として活動した後、2016年8月LiB入社。営業経験を経て、人事にてCCO(Chief Culture Officer)を務める。現在はLIBZ 幹部ドラフトのコンサルタント兼クライアントサクセスを担当。4児の父。
「ワークシフト」の夜明け
時はIPOへの道のりの真っ只中。働き方の柔軟性があらゆる人の可能性を解放することをわかっていながら、このタイミングでリモートワークやフレックスを解禁する…つまりある意味で働き方を「ゆるめる」という判断に、なかなか積極的になれなかった経営陣。大事な局面に不可逆的な要素を採用するか否かは、時は異なりますが、ここ数年のコロナ禍で多くの会社が抱えた葛藤なのではないでしょうか。成功体験のないことに大事なタイミングでチャレンジするのは、誰でも勇気が要ることです。
エンジニアとして自由な働き方で成果を出すことに馴染みのあった近藤は、リモートワークでも工夫次第で問題なく組織運営できることを見てもらい、少しでも成功のイメージが湧くように、管轄のエンジニアメンバーにだけ、先んじてフルリモートワークを取り入れました。フルリモート組織の成功体験を既成事実として作れるように、言わば「ワークシフト特区」のような形で、試験導入を開始していたのです。
採用難の時代、特にシニアのエンジニアにジョインしてもらうためには、「働きづらい環境」なんて言語道断。リモート・フレックス・副業といった、エンジニア界隈では既にスタンダードになりつつあった制度を、開発に協力してくれるフリーランスエンジニアに次々と適用しました。
一部の部署のエンジニアだけに適用されているものを、全社のあらゆる職種にも。
業務委託メンバーにだけ適用されているものを、社員やアルバイトにも。
試験導入での成功体験を広げていく形で、「あらゆる人がパフォーマンスを出しやすい労働環境」を目指し、改革がスタートしました。
■ 2019.2
この試験導入結果も後押しする形で、約3か月の間に、品川による全社の制度改革が怒涛のスピードで実行されます。
まずは、全社員に今の人事制度に関する本音をヒアリングするアンケートを実施。
このファクトデータをもとに課題を特定し、一つずつ解決するための制度検討が始まります。社員のリアルな声が集まると、経営会議でも自然と、「これは改善を急ぐべきだ」という空気になっていきました。
その後はほぼ毎週、制度検討の中間報告がなされ、目的や基本方針、ロードマップまでが全社員に対して丁寧にシェアされました。
■ 2019.4
そして4月という区切りのタイミングで、確定版の新人事制度が全社共有されました。これにより、いよいよ「リモート・フレックス・副業」が試験的、かつ段階的に導入されることになります。フルリモートが当たり前の現在から考えると、極めて慎重にワークシフトを進めてきたことがわかります。
大きく変わった点は下記。
・リモート日数に応じて給与に影響が出る「働き方係数」の撤廃
・リモートワークがより柔軟に活用可能に
・コアタイムを設けつつ、フレックスを導入
・週4勤務も一部検討可
試験導入後は、全社員および管理職に数か月ごとにアンケートを取り、現場の状況を踏まえながらチューニングしていきました。
品川:
制度改革を進めるにあたって大事にしていたことは、「骨格を決めてから全体を考える」「フレームワークを借りて、LiB風にアレンジする」「思考過程を丁寧にシェアする」ということ。「隗より始めよ」という言葉をモットーに、「まずは自社が最高の体現者になってこそ、自由な働き方を社会に広めることができるのだ」と考えました。「働き方をどこまで柔軟にするか」は正解がないので、今のLiBの組織やメンバーの状態にあったものにチューニングするために、とにかくファクトを収集することを心がけましたね。
近藤:
実際にやり始めればすぐ馴染むだろう、という確信がありました。プロダクトチームで先行していたこともあり、LiBでのリモートでの運営方法も一定イメージはできていたので。この期間に、出社メインの既存社員には、フルリモートメンバーとのコミュニケーションに意識的に慣れていってもらっていました。制度の試験導入期間は、サブスクリプションでいう無料体験期間のようなもので、実際に使ってみて良いものなら自然と継続利用されるのです。
LiBが、3か月という短い期間で試験導入まで推進できた理由をまとめると、下記のとおりです。
・ 改革推進者(品川)が適任だった(現場の苦労を経験していたため、社員目線で検討できた)
・ 丁寧にファクトを集めた (べき論や感覚、好みなどに拠らない意思決定ができた)
・ 先行で試験導入した結果があった (一部の成功体験を全体に展開すればよい状態になっていた)
・ 事業のテーマに一致した (ビジョンやミッションとの言行一致につながった)
この一つ一つが効果的に絡み合い、社員に、そして社長にも、違和感なく浸透していったのです。
この頃の働き方
・リモートは上長とすり合わせで柔軟に対応。強い出社推奨はなくなる
・コアタイムありフレックス
一方、時を同じくして、この時期には経営面でハードシングスに直面しています。
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・連続プレスリリース等、華々しい施策でIPO準備を盛り上げるも、資金調達失敗
・「今の社長は『下半身裸の王様』だ」という近藤からの強烈なフィードバック
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社長・松本のnoteでは、上場計画白紙に戻し、
“LiBが掲げるビジョン、ミッションをまずは自分たちから体現する。その観点からワークスタイルや人事制度、ルールなどを意思決定する”
と決意した過程が生々しく綴られています。(松本note「社長の経営判断で会社が潰れかけた話と、そこから起きた「2つの奇跡」の話。」より)
このように経営危機の中で大胆な改革に取り組むことはリスクがありすぎるため、一般的には時期を改めることも多いはず。しかし当時のLiBは、全ての状況を把握しながら断行したのでした。
近藤:
この時期は、経営、組織、サービス、プロダクトなどあらゆる面で立て直しが必要だと感じていました。その1つとして「人事制度」があったに過ぎません。だから最も不安定な時に改革を断行することに迷いはありませんでした。むしろ社員のことを考えると「事業がとてつもなくしんどい時期だからこそ、働き方の面だけでも良くしておこう」という気持ちでしたね。
そしてコロナ禍に突入
■ 2019.10
10月に新しい期を迎え、新人事制度はさらにアップデート。働き方の面だけでなく、グレードや給与、評価制度を刷新。またこの頃に大型の資金調達が決まり、少し光が見えてきました。
この間にLiBの組織アイデンティティを定義したり、上場を白紙に戻す方針転換についての松本の内省メッセージがシェアされたりと、しんどい中でもシンプルにコトに向かう空気へと変化していきます。
■ 2020.2
カルチャーや人事制度が定着してきた頃、巷では新型コロナウィルスの流行が始まりました。これまでリモートワークは個別事情に合わせて柔軟に対応していましたが、より強い意思決定で「原則リモート推奨」となり、できるだけ出社を控える方向に。既にリモートワークを活用していたメンバーが多かったため、切り替えはスムーズでした。
■ 2020.4
緊急事態宣言発令後、LiBは組織の大幅ダウンサイジングやオフィスの縮小など、構造改革の最も大玉となるものを決行しました。世の中では一気にリモートワークの普及が加速し、ニューノーマルな生活様式が叫ばれ、「働き方の柔軟性」への注目が高まります。
ここで初めて、LiBは「原則全社フルリモート勤務」というワークスタイルに切り替わります。この頃は意思決定をシンプルに、かつスピーディにすることを重視していたため、迷わず意思決定がなされました。
この頃の働き方(~現在)
・全社フルリモート
・コアタイムありフレックス、中抜けも本人判断で柔軟に対応(休校・休園が後押し)
品川:
感染状況が日々変化し、世界中で働き方を模索しているような状況の中、LiBでも何度も、勤務方針について社長の松本からメッセージがありました。その中で印象的だったのは、「それぞれの生活があるから、個別の事情を最優先してください」と社長が発信したこと。価値観の変化を感じた瞬間でした。自社の働き方改革に対して最初は消極的だった松本が、紆余曲折を経て、やっと創業時の想いを実現した瞬間のように感じました。
リモート勤務は不具合なく一気に定着し、この頃にはリモートで活躍できるプロフェッショナルを紹介するサービス「LIBZ エキスパート」の原型が立ち上がります。サービスコンセプトの「体現」という意味でも、リモートで成果を出すことに全社を挙げてコミットしました。
全社フルリモートが当たり前になってきた頃、オンラインコミュニケーションでのパフォーマンス向上、および働きがいUP施策の一環として、LiB独自の「スマートワークガイドライン」を制定。社員のリモートワークリテラシーの向上や認識の統一、および新しく入ってくるメンバーのオンボーディングにも有効活用されています。
■ 2021.10~
気がつけば、IPOを目指し、がむしゃらに突っ走っていたあの頃からちょうど3年。長期にわたる事業と組織の構造改革がほぼ完了し、chapter2に入る準備として、ミッションを刷新しました。
LiBは、新しい働き方、柔軟な働き方を活用してパフォーマンスを発揮する「ワークシフト支援企業」へと生まれ変わったのです。
「隗より始めよ」という言葉を胸に品川がコツコツと進めてきたLiBの働き方改革は、コロナ禍という唐突にやってきた新時代の風に後を押され、劇的ビフォーアフターとも言える結果に至ったのです。
ワークシフト支援企業として、目指している姿
現在はLiBでは、「新しい仕事のカタチ」をつくる会社として、自らも新しい働き方を積極的に採り入れています。フルリモート勤務(オフィス出社自由)、週4勤務、副業OK、多様な雇用形態など、個人のライフスタイルに応じた柔軟な働き方を推進しています。
LiBコーポレートサイト>ワークスタイルより
これらの制度の適切な運用によって、時短勤務からフルタイム勤務に切り替えることができた社員や、月の半分を週4勤務にしている社員など、多様な働き方の事例が次々と生まれています。
また、場所にとらわれない働き方を取り入れたことによって、全国から優秀な人材の採用が可能になりました。名古屋、大阪、福岡、静岡、石川など、全国各地からのジョインが続いています。
そして品川も、今は家族で大分に移住し、新しい働き方で新しい人生を歩んでいます。
(品川note「大分からフルリモートで働く僕が、「ご機嫌は礼儀」と考える理由」)
まとめ
3年に及ぶ改革によって実現したワークシフトにより、LiBが得られたメリットは、以下の通りです。
・採用対象が拡大
オフィス出社前提の頃は、採用対象者の居住地は一都三県が限界。しかし今では全国各地(時差2時間以内の海外含む)から採用が可能に。
・「働き方」起因の退職が減少
制度が形骸化することなく、実際に「生き方に働き方を合わせる」を体現するメンバーが増えたことで、特にワーキングマザーの定着率が改善。
・ダイバーシティ推進が加速
特に女性の活躍実感度が向上(Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2022サーベイ調査より)。「友人推奨」「昇進意欲」「就業継続」がすべて平均以上に。
LiBも現在進行形で進化しているように、「ワークシフト」にゴールはありません。社会や個人の価値観の変化に適応し、恐れずにアップデートし続けることが、事業の成長や企業価値向上にきっとつながると信じています。私たちの試行錯誤の歩みが、今まさに変わろうと挑戦している企業の一助となれれば幸いです。
さらにLiBはこの10月、人事ポリシーを新たに「Community Policy」として整理し、VMVC(Vision, Mission, Values & Community Policy)を刷新しました。その背景にある想いについて、代表の松本自身が振り返るインタビューを近日お届け予定です。楽しみにお待ちください!
取材・編集・撮影:高嶋 朝子(株式会社LiB)